マンションなどの区分所有建物では、多くの人々が一つの建物を共有しながら生活しています。このような特殊な所有形態においては、個々の区分所有者の権利を保護しつつ、建物全体の適正な管理と共同生活の秩序を維持することが不可欠です。
区分所有法は、この目的を実現するために、管理組合の規約や区分所有者間の合意によっても変更できない「強行規定」を数多く設けています。これらの規定は、区分所有関係における最低限守るべきルールとして、すべての区分所有建物に適用されます。
管理規約改正を進めるにあたっては、
区分所有法や標準管理規約の位置づけを正しく理解することが重要です。
マンション管理規約の基本と最新改正については、
「優先順位別 管理規約改正項目一覧 ー何から改正に着手すべきか 法律・規約」
で体系的に整理しています。
1. 強行規定とは
強行規定とは、当事者の合意や規約によっても変更できない法律の規定のことです。区分所有法では、区分所有者の基本的な権利を保護し、建物の適正な管理を確保するため、多くの重要な規定が強行規定とされています。
2.主な強行規定の内容
(1) 共用部分に関する規定
共用部分の範囲(第4条)
- 数個の専有部分に通ずる廊下、階段室等は当然に共用部分となる
- 規約でこれと異なる定めをすることはできない
【改正区分所有法】
(共用部分)
第4条 数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とならないものとする。
2 第1条に規定する建物の部分及び附属の建物は、規約により共用部分とすることができる。この場合には、その旨の登記をしなければ、これをもつて第三者に対抗することができない
共用部分の持分(第14条)
- 各共有者の持分は、原則として専有部分の床面積の割合による
- この原則に反する規約は無効
【改正区分所有法】
(共用部分の持分の割合)
第14条 各共有者の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による。
2 前項の場合において、一部共用部分(附属の建物であるものを除く。)で床面積を有するものがあるときは、その一部共用部分の床面積は、これを共用すべき各区分所有者の専有部分の床面積の割合により配分して、それぞれその区分所有者の専有部分の床面積に算入するものとする。
3 前二項の床面積は、壁その他の区画の内側線で囲まれた部分の水平投影面積による。
4 前三項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。
(2) 管理組合に関する規定
区分所有者の団体(第3条)
- 区分所有者は、全員で建物等の管理を行うための団体を構成する
- この団体の構成は強制的であり、脱退することはできない
【改正区分所有法】
(区分所有者の団体)
第3条 区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。
集会の招集(第34条)
- 管理者は、少なくとも年1回集会を招集しなければならない
- 区分所有者の5分の1以上で議決権の5分の1以上を有する者は、集会の招集を請求できる
【改正区分所有法】
(集会の招集)
第34条 集会は、管理者が招集する。
2 管理者は、少なくとも毎年一回集会を招集しなければならない。
3 区分所有者の五分の一以上で議決権の五分の一以上を有するものは、管理者に対し、会議の目的たる事項を示して、集会の招集を請求することができる。ただし、この定数は、規約で減ずることができる。
4 前項の規定による請求がされた場合において、2週間以内にその請求の日から4週間以内の日を会日とする集会の招集の通知が発せられなかつたときは、その請求をした区分所有者は、集会を招集することができる。
5 管理者がないときは、区分所有者の五分の一以上で議決権の五分の一以上を有するものは、集会を招集することができる。ただし、この定数は、規約で減ずることができる。
(3) 議決要件に関する規定
普通決議(第39条)
- 原則として区分所有者及び議決権の各過半数で決する
- これより厳しい要件を規約で定めることは可能だが、緩和することはできない
【改正区分所有法】
(議事)
第39条 集会の議事は、この法律又は規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。
2 議決権は、書面で、又は代理人によつて行使することができる。
3 区分所有者は、規約又は集会の決議により、前項の規定による書面による議決権の行使に代えて、電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)によつて議決権を行使することができる。
特別決議(第17条、第31条等)
- 共用部分の変更や規約の設定・変更等は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数で決する
- この要件を緩和する規約は無効
【改正区分所有法】
(共用部分の変更)
第17条 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。
2 前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。
(規約の設定、変更及び廃止)
第31条 規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
2 前条第2項に規定する事項についての区分所有者全員の規約の設定、変更又は廃止は、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の四分の一を超える者又はその議決権の四分の一を超える議決権を有する者が反対したときは、することができない。
建替え決議(第62条)
- 区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数で決する
- この要件を規約で緩和することはできない
【改正区分所有法】
(建替え決議)
第62条 集会においては、区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議(以下「建替え決議」という。)をすることができる。
2 建替え決議においては、次の事項を定めなければならない。
一 新たに建築する建物(以下この項において「再建建物」という。)の設計の概要
二 建物の取壊し及び再建建物の建築に要する費用の概算額
三 前号に規定する費用の分担に関する事項
四 再建建物の区分所有権の帰属に関する事項
3 前項第3号及び第4号の事項は、各区分所有者の衡平を害しないように定めなければならない。
4 第1項に規定する決議事項を会議の目的とする集会を招集するときは、第35条第1項の通知は、同項の規定にかかわらず、当該集会の会日より少なくとも2月前に発しなければならない。ただし、この期間は、規約で伸長することができる。
5 前項に規定する場合において、第35条第1項の通知をするときは、同条第5項に規定する議案の要領のほか、次の事項をも通知しなければならない。
一 建替えを必要とする理由
二 建物の建替えをしないとした場合における当該建物の効用の維持又は回復(建物が通常有すべき効用の確保を含む。)をするのに要する費用の額及びその内訳
三 建物の修繕に関する計画が定められているときは、当該計画の内容
四 建物につき修繕積立金として積み立てられている金額
6 第4項の集会を招集した者は、当該集会の会日より少なくとも1月前までに、当該招集の際に通知すべき事項について区分所有者に対し説明を行うための説明会を開催しなければならない。
7 第35条第1項から第4項まで及び第36条の規定は、前項の説明会の開催について準用する。この場合において、第35条第1項ただし書中「伸縮する」とあるのは、「伸長する」と読み替えるものとする。
8 前条第6項の規定は、建替え決議をした集会の議事録について準用する。
(4) 義務違反者への措置
使用禁止請求・競売請求(第57条、第58条、第59条)
- 共同生活の秩序を乱す行為をした区分所有者に対する措置
- 規約でこれらの権利を排除することはできない
【改正区分所有法】
(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
第57条 区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
2 前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。
3 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第1項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。
4 前三項の規定は、占有者が第6条第3項において準用する同条第1項に規定する行為をした場合及びその行為をするおそれがある場合に準用する。
(使用禁止の請求)
第58条 前条第1項に規定する場合において、第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、前条第1項に規定する請求によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、相当の期間の当該行為に係る区分所有者による専有部分の使用の禁止を請求することができる。
2 前項の決議は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数でする。
3 第1項の決議をするには、あらかじめ、当該区分所有者に対し、弁明する機会を与えなければならない。
4 前条第3項の規定は、第1項の訴えの提起に準用する。
(区分所有権の競売の請求)
第59条 第57条第1項に規定する場合において、第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。
2 第57条第3項の規定は前項の訴えの提起に、前条第2項及び第3項の規定は前項の決議に準用する。
3 第1項の規定による判決に基づく競売の申立ては、その判決が確定した日から6月を経過したときは、することができない。
4 前項の競売においては、競売を申し立てられた区分所有者又はその者の計算において買い受けようとする者は、買受けの申出をすることができない。
3. 任意規定との違い
任意規定は、規約や契約で別段の定めをすることができる規定です。区分所有法には任意規定も存在しますが、基本的な権利義務関係や重要な手続きについては強行規定とされています。
任意規定の例:
- 管理者の選任方法(第25条)
- 管理費用の負担割合(第19条)- 一定の範囲内で変更可能
【改正区分所有法】
(選任及び解任)
第25条 区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によつて、管理者を選任し、又は解任することができる。
2 管理者に不正な行為その他その職務を行うに適しない事情があるときは、各区分所有者は、その解任を裁判所に請求することができる。
(共用部分の負担及び利益収取)
第19条 各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。
4. 違反した場合の効果
強行規定に違反する規約や契約は、その部分が無効となります。
- 無効な規定は初めから法的効力を持たない
- 該当部分のみが無効となり、他の有効な部分は効力を維持する
- 無効な部分については、法律の規定がそのまま適用される
5. 実務上の注意点
規約作成時
- 国土交通省の標準管理規約を参考にする
- 強行規定に抵触していないか、専門家のチェックを受ける
- 議決要件は法定要件より厳しくすることは可能だが、緩和はできない
既存規約の見直し
-法改正により強行規定が追加されることがある
- 定期的に規約の適法性を確認する必要がある
- 無効な規定が発見された場合は、速やかに改正する
6. 管理規約で変更できない条文
区分所有法の強行規定に該当し、管理規約を変更できない条文は、以下の通りです。
・規約の設定・変更・廃止の特別決議の要件
区分所有者数および議決権の各4分の3以上(区分所有法第31条、標準管理規約第47条第3項に対応)
・義務違反者に対する使用禁止の請求等の要件
区分所有者数および議決権の各4分の3以上(区分所有法第58条等、標準管理規約第60条等に対応)
・建替え決議の要件
区分所有者数および議決権の各5分の4以上(区分所有法第62条、標準管理規約第66条に対応)
・集会(総会)の招集通知の期間
会日より少なくとも1週間前(区分所有法第35条第1項、標準管理規約第44条第1項に対応)
※ただし、規約でこの期間を伸長することは可能です。
7.まとめ
区分所有法の強行規定は、区分所有建物における基本的な権利保護と適正な管理を確保するための最低基準です。管理組合の運営にあたっては、これらの規定を正しく理解し、遵守することが不可欠です。
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