“専有部分と共用部分を一体として工事できるのか”|区分所有法と判例解説


― 最高裁・下級審判例を踏まえた改正区分所有法の実務ポイント ―


マンションの大規模修繕や設備更新では、

「共用部分の工事をするために、専有部分にも立ち入らなければならない」

「給排水管の更新で、専有部分内の配管も同時に交換したい」

といった“専有部分と共用部分を一体として行う工事”が問題になります。

この点については、

 平成12年3月21日最高裁判決

 平成29年3月15日東京高裁判決

 平成23年9月22日東京地裁判決

といった判例が実務の指針を示してきました。

そして、改正区分所有法は、これらの判例理論を明文化・整理した側面があります。





1.最高裁平成12年3月21日判決の意義

◆ 事案のポイント

共用部分の改修工事を行うにあたり、専有部分内への立入りや一定の工事が必要となったケース。

◆ 最高裁の判断枠組み

最高裁は、概ね次のような考え方を示しました。

共用部分の保存・管理のために必要な工事であれば

専有部分への立入りや一定の影響が生じても

受忍義務が認められる場合がある

つまり、

「共用部分の適切な維持管理のために合理的に必要な範囲」であれば、

専有部分に一定の影響が及ぶことは直ちに違法とはならない

という枠組みです。

この判例は、その後の「一体工事」議論の出発点になりました。



2.専有部分内配管の更新をめぐる下級審判例

(1)東京地裁平成23年9月22日判決

給排水管更新工事において、

専有部分内の枝管部分も含めて更新する決議の有効性が争われました。

◆ 裁判所の考え方

 建物の維持保全の観点から合理性がある

 共用部分工事と密接不可分である

 区分所有者間の衡平を害しない

といった点を重視。

「実質的に共用部分の機能維持に不可欠な部分」であれば、

専有部分であっても一定範囲で一体処理が可能とする方向性を示しました。


(2)東京高裁平成29年3月15日判決

こちらも給排水管更新をめぐる事案。

◆ 高裁の重要ポイント

一体工事の合理性

個別対応との比較(費用・安全性)

区分所有者間の不公平の有無


特に注目すべきは、

建物全体の機能維持のために合理的で、

かつ区分所有者の権利制限が過度でないか

というバランス判断です。



3.改正区分所有法との関係

改正区分所有法では、

① 共用部分の管理・変更の明確化

② 必要な立入り・使用のルール整備

③ 円滑な決議制度の整理

が進められました。


とくに重要なのは次の考え方です。

◆ 改正法が整理した実務原則

① 共用部分の維持管理の優先性

建物全体の安全性・機能維持は、個別専有権よりも一定程度優先され得る。


② 受忍義務の明確化

合理的範囲であれば、専有部分への立入りや工事への協力義務が認められる。


③ 衡平性の確保

一体工事を行う場合でも、

費用負担の公平(先行工事者への対応)

必要性・合理性の説明

手続の適正(適法な決議)

が不可欠。



4.実務上の注意点(管理組合向け)

専有部分と共用部分を一体として工事する場合、以下が重要です。

✅ ① 「なぜ一体でなければならないのか」を明確化

・個別更新との比較資料

・安全性・漏水リスクの説明


✅ ② 決議区分の確認

・保存行為(共有物の現状を維持し、滅失・損傷を防ぐための行為)か

・管理行為(性質を変えない範囲での利用・改良のための行為)か

・変更行為(共有物の形状や効用に「著しい」変更をもたらす行為)か

※内容により特別決議が必要になる場合があります。


✅ ③ 費用負担の整理

・全体修繕費から支出するのか

・専有部分負担とするのか

・減価償却的整理を行うのか


✅ ④ 丁寧な事前説明

判例が一貫して重視しているのは「合理性」と「衡平」です。

訴訟に発展するケースの多くは、説明不足・合意形成不足にあります。



5.まとめ

判例の流れを整理すると、

 時期               裁判所の姿勢

最高裁(平成12年)        共用部分維持のための合理的受忍義務を認容

地裁・高裁(平成23年・29年)   専有部分内配管も実質的機能から一体判断

改正区分所有法 (令和8年)     判例理論を制度面で整理・明確化


結論

専有部分と共用部分の一体工事は、

「合理性」+「必要性」+「衡平性」+「適法な手続」

を満たせば可能である、

というのが判例と改正区分所有法の到達点です。





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